ブラジャーは、輝きを支えるためにある
姿勢をよくすると言うと、私たちは背筋を伸ばせばいいと背中に意識がいきがちだが、それをブラジャーでどう実現するかが湯浅ら研究員の課題だっ た。だが、答えは簡単なのだ。バストの両脇から脇の下にかかる辺りを前に押し出す感じで力を入れると、その力に押され、ちょうど深呼吸をしているときと同 じ状態になり、自ずと姿勢もよくなるという原理を働かせればいいのだ。 だから“シャキッとブラ”は、バストの両サイドに当たる土台とバックに伸縮性の強いスパンレックスを折り込み、あえて少し締めつけるようにデザインされている。言われてみればなるほどと思うが、この原理に至るまでに湯浅らは長い時間を要したという。 街に出ると、湯浅はよく女性を見る。 意識的に目が行くのは、やはり胸元だ。特に夏場、薄着の季節になると、一瞥しただけで女性のスリーサイズがわかるという。バストもトップとアン ダー、カップのサイズはおおよその見当がつき、パットでも入れてないかぎり、湯浅の目測にほとんど誤差はないともいう。そりゃそうだろう、延べ35000 人ものデータが彼の頭に入っているのだから。 「正直言って、ちょっと残念だなと思う女性のほうが多いんですよ。もうちょっとあげる感じのブラジャーをすればシルエットがもっと綺麗になるのに な、と言ったほうがいいですかね。バストには重みがあるので、自然とさがってきます。年齢による体型の変化もあります。ですが……、たとえば浴槽に首まで 漬かると、水圧の関係でバストが少し浮きあがるのですね。私は、あの状態がそのひとにとっていちばん美しいバストのかたちだと思っています。ブラジャー は、そのかたちを実現するためにあるものだと」 ときおり、湯浅ですら目を奪われるような美しいシルエットの女性に出会う。 真正面からとらえた姿、横から見た姿、あるいは後ろ姿――、通り過ぎる女性を目で追いながら、湯浅は、何故その女性が美しいのかを考える。そして、そのシルエットの美しさから次の商品のヒントや研究課題をもらうのだという。 「私が綺麗だなと思う女性に共通しているのは、バストの大きい小さいに関係なく、姿勢がよくて、背筋がスッと伸びて、胸を張って歩いている。みん な生き生きしているように見えることなんです。そういう女性は、ほんと、綺麗ですよ。輝いている。私がつくるブラジャーでその手助けができればと思います よね」 湯浅は、女性が美しくなりたい、美しくありたいと願う欲求は男性には遠く及ばないものがあるという。だから、女性の下着をつくるのは、女性のあくなき欲求を知る仕事と言ってもいいくらいだとも。 あくなき欲求は、コンプレックスの裏返しでもある。 どんな女性にも、容姿の悩みとコンプレックスがある。髪が猫っ毛だとか目の大きさ、鼻の高さや唇の厚さ。バストはもとより、怒り肩だとか太腿の太 さ。少し太ったほうが健康的で可愛いと思えるような女性もプロポーションを気にし、ダイエットに励んだりする。ペディキュアを塗った足の爪のかたちが悪い ことを気にする女性もいる。女性が抱える容姿のコンプレックスは男には永遠の謎だ――、と書くと、また一概に決めつけないでほしいと読者から言われそうだ からやめておくが。 だが、その日のショーツ一枚、ブラジャーひとつで女性の気持ちが変わるというのは真理なのだろう。着衣の下に纏うものだからこそ、女性は気を配るのだ。 その配慮がたおやかさを育み、女らしさを引き立てる。お気に入りのデザインで、機能性も抜群なら活力も生む。元気になる。やる気も出る。自然と心が弾んでくるから胸も張れる。それがやがては自信につながり、周囲には生き生きとした女性に見える。 輝いて見えるとは、きっとそういうことだ。 (写真:山本 雷太) |
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