最終更新日: 2003-03-29 (公開日: 2001-11-07)
この文書では「いい作品とは何か」という本質にはまったく迫らず、作品をよく見せるための、手っ取り早く実践できるお手軽なテクニックを紹介する
(実は難しいものも混ざっているが)。ここでいう作品とは主にソフトウェアや研究成果のことを想定している。他にもいいテクニックがあればぜひ教えていただきたい。
- 公開されていない作品は存在しないも同然
- 狭い世界ではなく、できるだけ広い世界で公開する
- 完璧主義にこだわらず、ある程度の品質で公開する
- 早く公開すれば人を出し抜くことができる [yamato]
- 公開をもたもたしていると人に先を越される危険性がある
- 作品を公開して人の意見を聞きながら品質を上げればいい
- システムの改良した人は名前が全然残らない [masui]
- もはや Webページのない作品は存在しないも同然
- Webページがないと、作品に簡単にアクセスできない
- FTPサイトにぽつんと foo.tar.gz を置いても誰も使う気がしない
- できれば英語ページも作る
- 海外から作品が評価されるかもしれない
- 国内の人にも、なんとなく「すごそう」という印象を与えられる
- かっこいい, 覚えやすい, 読みやすい, わかりやすい、検索しやすい
- 日常的な一般名詞・固有名詞を名前にするのはやめる。混乱するから [yto]
- a か b で始まる名前をつけるとアルファベット順のリストの中で目立つ [yto]
- 人に知られていない作品は存在しないも同然
- 流行ってしまった作品は、実際はへぼくても過大評価される
- 自己顕示欲を満足させる
- 作品を公開している人は評価される。過大評価されることも多い
- 作品を公開しない人 (アウトプットのない人) は評価されない
- 作品を仕上げて公開するという過程で質が上がる
- 人から助言をもらえる
- 人から手伝ってもらえることもある
- 情報は情報を公開する人のところに集まる
- 論文リストの量が多いとすごそうに見える
- いろいろたくさんやっている→すごそう、と思わせる効果がある
- 公開するのが面倒
- 作品を他人に見せても恥ずかしくない品質にするのが面倒
- Webページやソフトのドキュメントを書くのが面倒
- 公開後にソフトを継続的に保守・サポートするのが面倒
- そもそも自分のために作った作品であり、他人に見せるものではない
- 完璧主義
- 程度の低いものを公開して馬鹿にされるのが嫌だ
- 権利関係の都合で公開できない
- 目立つのが嫌い
- 目立たず、地味に暮らしたい
- 目立たず、知る人ぞ知る存在になりたい
- 日本人的なメンタリティ
- 謎めきたい症候群
- 自分を謎めいた存在に位置づけるのがかっこいいと思う
- 作品を作るよりも批評する方が好きだ
- 原則: いい作品はいい評価を受けるべき
- いい作品が見せ方の悪さで評価されないのはもったいない
- いい製品でも売り方が悪いと売れない
- 見せ方のちょっとした配慮で大きな違いが出る
- やっぱり中身が大切
- 見せ方ばかりを気にして作品の中身をないがしろにするのは本末転倒
- 原則: less is more
- 要点をついた短い言葉の方が、たくさんの言葉より内容が伝わる
- 文字を大きく
- 読めない文字は存在しないも同然
- 1画面あたり 10行以内。内容を厳選して文字数を減らす
- 写真と図を多用する
- 文字だけのプレゼン資料は退屈
- 印象的な写真は特に効果が大きい
- ビデオを流す
- ビデオが始まると、寝ていた人も起きる
- 音を鳴らすこと (音のないビデオは魅力が 1/4 くらいだ)
- 典型的なパワーポイントのテンプレートは避ける
- 聴衆に「あー、またあれかよ」と思われてしまう
- プレゼンの内容まで典型的でありきたりと思われてしまう恐れもある
- 資料を一目見れば話す内容を思い出せるように内容をまとめておく
- 個性的な人の顔写真を使うと安易に笑いが取れる [yamato]
- 原則: 聴衆に興味をもってもらうように喋る
- 聞いてもらえないプレゼンは聴衆の時間を無駄にする時間泥棒
- 聴衆を退屈させないこと
- 自己満足のプレゼンではなく、聴衆が気に入るプレゼンを心がける
- あなたの苦労話など誰も聞きたくない! [yamato]
- 時間を超過して喋ると嫌われる
- 作品あるいはあなたに興味をもってもらえれば成功
- 聴衆に向かって喋る
- プロジェクタのスクリーンやノートPCに向かって喋ってはいけない
- 前置きをできるだけ短くして早く本題に入る
- 何がすごいのか結論をさっさと述べて印象づける
- 過去の手法はダメ、自分のやり方の方がすごいと断言する
- 前置きが長いと中身がないと判断して聴衆は寝てしまうか内職を始める
- わかりやすく喋る
- 難しいこと、細かいことは言わない
- 細かい表、細かいグラフ、数式の羅列はその場では理解不可能
- 聞き手にとって重要な点は詳しく丁寧に説明する [yamato]
- わかりやすい例を使って説明する
- 形式張った堅苦しい発表スタイルを避ける
- プレゼンの内容はおろか発表者その人までつまらないものに感じる
- リラックスしてある程度くだけていた方が楽しいし聞く気になる
- 目立つ服装をする
- 目立つ服装はプレゼンの際に注目を集めやすい
- 計算機関係の集まりでは服装にうるさくないが、汚い服装は避ける
- 原則: 興味を引くデモを行なう
- プロジェクタを使って巨大なスクリーンに映し、派手な効果音を使う [masui]
- 小さな画面でちまちま動いているソフトはすごく見えない
- 特に来客へのデモを行なうときに有効
- デモにはおもしろい例を使う
- かわいいキャラクタを使う
- 「お父様、お嬢様をください」などのおもしろい例文を使う [yamato]
- 見た目をかっこよくする
- OpenGL で派手な 3D効果をつける
- 地味な研究でも派手に見える
- 原則: シンプルで見やすいデザインを心がける
- 凝ったデザインをして成功するのは上級者だけ
- 素人がやるとみっともない結果に終わる
- 保守が楽なようにサイトを設計する
- 保守が面倒だと Webページを作る意欲が激減する
- 凝ったHTMLを手書きすると保守が地獄
- スタイルシートを使うと単純なHTMLでも見栄えがする
- テンプレートを多用してページのデザインを統一する
- プログラムによる自動生成を多用する (日記のCGIとか)
- 2,3行程度の簡潔な紹介文をページの先頭に書く
- 長ったらしい割には結局何なのかわからないページがある
- スクリーンショットがあるソフトは使う気が起きる
- スクリーンショットはアニメーションにする [masui]
- まともなページを作る
- ドキュメントのないソフトは使う気がしない
- 関連システムも公平に紹介した方がフェアに見える [masui]
- 良質なリンク集を作ると、加えてくれといってもっと情報が集まる [masui]
- 他人の意見を載せる際に必ずクレジットを入れる [sumi]
- 原則: 見やすい簡潔な図を作る
- けばけばしい下品な図を避ける
- 素人はあまり派手にしないのが無難
- 特に論文用の図は下品なのはみっともない
- 地味すぎるのもいけない
- 影をつける
- 線の太さに気をつける
- 細すぎても太すぎてもいけない (細すぎる方をよくみかける)
- 図形の縁取りをする
- 縁取りの線を濃い色、塗り潰しを薄い色にするときれい
- ごちゃごちゃさせない
- 論文の中の図は適度に小さく
- 妙にでかい図は素人くさくみえる。専門家の図は適度に小さい [bentley]
- 原則: 中間色を使う
- きれいなパステルカラーを選ぶ
- 原色の Red, Green, Blue, Yellow, Cyan, Magenta で描いた図は汚い
- 薄い色はたくさん使ってもみっともなくなりにくい
- 濃い色をたくさん使うとみっともなくなりやすい
- 薄すぎるかな、と思うくらいの方がいいことが多い
- 同系色の濃い色と薄い色を合わせて使うときれいなことが多い
- 薄い半透明の色を重ねると美しい
- 原則: 山があるから登るというマロリー病に用心する [bentley]
- フォントと文字修飾が山ほどあるからつい使いたくなるけど我慢する
- 明朝, ゴシック, Helvetica, Times などの定番を使う
- 太字、下線、網掛け、サイズ変更などの文字装飾はできるだけ避ける
- たくさんのフォントを使いすぎない
- 原則: 安っぽいクリップアートは使わない
- マイクロソフト名物の「黒い棒の人」は使わない
- クリップアートで手抜きをしていると一目でばれてしまう
- アメコミ調、劇画調などの大げさなクリップアートを避ける
- 安っぽいし、セールスマンのビジネスプレゼンを連想させる
- できるだけ自分で図を描く、あるいは、手持ちの写真を使う
- 文字をみやすく
- 軸の単位が読めないのに、曲線だけ見せてもらっても困る
- 目盛りは必要最小限に
- 複数の線を並べるときは、見分けやすいようにする
- 円グラフは使わない [bentley]
- グラフの重要な個所に吹き出しを入れて説明を加える [yamato]
- The Chicago Manual of Style に従って描く
- [bentley] のコラム10を参照
- 情報処理学会論文誌もこのスタイル
- 独自の変なスタイルはみっともない
- 映像に合った音楽をつける
- 音楽のない映像だけのビデオは退屈
- シーンの切り替えと音楽を同期させる
- 音楽を作曲するのは大変なので素材を使うといい
- 短くまとめる
- 長すぎると飽きるし、見てもらえない
- ビデオは2分までにしたい (見てられる限界) [masui]
- 静止画は素材として便利
- Adobe Premiere などで静止画を動かすとよい
- ナレーションは重要
- 音楽でナレーションが聞き取りにくくならないように気をつける [yto]
- いい写真を厳選する
- デジカメで写真をたくさん撮りまくり、その中から選ぶ
- ボケた写真はだめ
- 三脚を使う
- 暗いところではフラッシュをたく
- 半押しでピントをあわせる
- 脇をしめて手振れをふせぐ
- シャッターを切るときに手振れしないようにカメラを固定する
- 暗い写真はだめ
- 室内撮影の写真は 1.25〜1.5 くらいガンマ値を上げるといい [sumi]
- 蛍光灯は周期変化する光源なので、カメラ撮影には向かない [sumi]
- また、全体におかしな色がつく
- 撮影用ライト(タングステン)があれば一番いい
- 棒状や円状の光源は光方向が集中しないので効果を出しにくい [sumi]
- 電球に傘をつけて指向を持たせて、2灯にして左右から当てるといい
- 撮影時にバック紙をひくと、余分な光が吸収されていい
- コート紙じゃない紙(画用紙でもいい)の大きなもの [sumi]
- カメラ屋さんで購入できる
- 青のグラデーションシートを使うと、一気に「商品撮影」っぽくなる
- 部屋を暗くしてスポット照明で撮るとかっこいい
- 青やピンクの光源を使うとメディアアートっぽい雰囲気が出る
- 電球の色ではなくカラーセロファンを使うといい [sumi]
- 内蔵フラッシュは安っぽさを助長してしまう [sumi]
- 自然な写真が欲しい場合は、自然光の元でノンフラッシュがベスト
- 小道具を買っておけ [sumi]
- 練り消しゴムがあると、モノの固定に役立つ
- タバコがあるとサイズ比較を知らせやすい
- 定規があると、まっすぐ並べておくのが簡単
- 写真から必要な部分だけを切り抜く
- 周りの物体に気をつける
- Webページに写真を貼るときはきれいな枠と影をつける
- 簡潔明瞭な文章を心がける
- 素人が難解で高尚な文章を書こうとするとみっともない結果に終わる
- 俗語や内輪受けを避ける
- 多くの人に受けいれられるように心がける
- マニアに限定した内容であれば、この限りではない
- 簡潔な箇条書きなら読んでもらいやすい [yto]
- 中傷、嫌味、知ったかぶり、当てつけ、言い掛かり、いじわるな批判を避ける
- 日頃から他人の作品および作品の表現に目を向ける
- 真似できる部分は真似してしまう (剽窃には注意して)
- 悪い見本は反面教師として役立つ
- 作品の表現に興味を持つと、いろいろなものを注意して見るようになる
- 例: ポスター, パンフレット, 製品のデザイン, 人の喋り方, 気の利いた店の商品の陳列, テレビ番組の演出, 書籍の装丁,
商品のマーケティング, 流行りもの
作品の公開や作品の表現の方法について強く興味を持っている。なぜなら、何かを作ったら多くの人に見てもらいたいし、せっかく見てもらうならいい印象を与えたいと思うからである。それに加えて、作品の程度の低さを表現で誤魔化そうという密かな要求もある。
作品をよく見せるためのテクニック集なんてものを書くなど、なんだか大それたことをするものだとためらいがあるが、自分用のメモとしてまとめたかったし、せっかく書いたなら人に見てもらいたいし、公開するといろいろいいこと
があるし、というわけで公開することにした。こうした文書をまとめることで、少しは作品の表現が上達すればいいものだ、と思っている。
大和正武さん [yamato]、 山下達雄さん [yto] 増井俊之さん [masui]、 すみけんたろうさん [sumi]、 小松弘幸 [komatsu] からありがたい助言をいただいた。本文中に印を示した。
satoru@namazu.org